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どこにでもある、普通の出会い

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どこにでもある、普通の出会い ◆NQqS4.WNKQ


日本刀とは、美しい。

極彩と染め上げられた飾り紐や、緻密な刻みを入れた金属のなどの装飾はもちろんの事であるが、何よりも目を引くのはその刀身であろう。
鋳るのでは無く、打つという形式によって叩き出される、反りの入ったその刀身。
それが水平線を連想させる直刃であれ、陽炎のごとき揺らぎを見出させる乱刃であれ、その刃が日の、あるいは月の光を受けて煌いている様など、全ての人の目を引き寄せる輝きを生む。
そこには、無論人を害する為に生み出された道具としての本能的な恐怖も含まれる。
だが、それを含めて尚、人に美しい、という感慨を抱かせる、『美しさ』を持っている。

そして何よりも、その刀身を収める鞘の存在を忘れてはいけない。
緻密な飾りの施された鞘という物はもちろん存在してはいるが、それでも大多数の鞘は素朴な作りをしている。
何の飾り気の無い白木の鞘や、柄に合わせて塗られた黒塗りのそれなど、何れも単体では目を引くほどの物ではない。
だが、それが刀と合わさった時、その飾り気の無さが相反する美しさを生み出すのだ。
凶器である刀と、武器である刀、
剥き出しの刀身と、収められた刃、
全くの同質の物体によって生み出されるその異なる特性は、生物が本能的に求める生と死を同時に体現し、それに惹かれる事となる。
そうしてそれは、日本刀の美しさの本質とはつまるところ、『刃』の一点のみに集約されるという表れでもある。
元より、柄に飾りを施すようになったのも、鍔に掘り込みが成されるようになったのも、鞘に美しさを求めるようになったのも、日本刀が武器としてではなく、武士階級の権威の象徴になった後の話だ。
日本刀の本質とはなんら関わりの無いそれは、無論刀本来の機能には何の影響も及ぼさない。
言ってしまえば装飾とは単なる余分であり、刀の美しさとは最初から最後まで、武器としての機能そのものにあるのだ。
何一つ飾る必要の無い剥き出しの白刃の輝きが、その表れなのだろう。

さて、長くなったけど、そう踏まえて考えるなら、今僕の手の中にある日本刀は、なるほどとても美しい。
まるで飾り気の無い、黒塗りの鞘。
その色に合わせたのか、黒地に編み上げられた柄。
そして、そもそも存在すらしない鍔。
ただ、その中にあって、軽く引き抜いてみた直刃の刀身は、月明かりのを写し青白く輝いている。
まるでその無味乾燥さが、逆にその美しさを対比するかのように。
なるほど確かにこの刀は美しい。
ただ、残念かな。
僕という存在は刀その物よりも、それ以上に刀を持つ『彼女』の姿をこそ美しいと思っている。
わかりやすく言うならば、僕は刀自体にはそんなに興味は無い、無論その価値を否定したりはしないが。

……つまるところ、僕は、刀なんて持った事くらいしか無い。

「さて……」
リュックの中には、武器が入っているという。
なるほど、確かに刀とは武器だ。
だけど彼女……『式』と違い、ごく普通の一般人であるこの僕『黒桐幹也』には、正しく無用の長物でしかない。
何時だったか試しに聞いてみた事があるけれど、刀の扱いというのは難しいらしい。
詳しい内容はどうでもいいけれど、斬る、という動作ならば僕は鋏を使った方が良く切れるという話だ。
刃物を用いた事が無い人間なら、ナイフとか包丁の方が小回りが効いて便利とか。
良くドラマとか街の路地裏とかで見かける、腰だめに構えて命取ったり取られたりするアレだ。
そう考えるなら、日本刀という凶器も役に立つかもしれない。
実際の所刀も、現役で使用された当時は、斬るよりも突くほうが多かったという統計もあるとか。
但し、
「少し、長すぎるんじゃないかな…?」
持てるなら、の話だ。

いい加減腕も疲れてきたので、引き抜いていた刀身を収める。
切っ先まで抜けなかったので、澄んだ音を立てながらいとも容易く刀身は収まり、反射されていた月光は消える。
そう『引き抜けなかった』、引き抜かなったでは無く……要するに長すぎるのだ、この刀は。
何しろ鞘に包まれた部分だけで、僕の身長よりも長い。
最初は模造刀とも思ったけれど、手にかかる重みは紛れも無い金属のソレで、その重量を裏切らず引き抜いたその刀身は本物だ。
本物の日本刀は何度か目にしているけども、こんな馬鹿みたいに長いのは初めてお目にかかる。
式が愛用している九字兼定が、大体『太刀』と呼ばれる主流の日本刀の平均的な長さで、刀身の長さは二尺二~三寸、70センチメートルくらいのはず。
その倍以上の長さを持つこの刀は、素人の僕は勿論、そもそも人間に扱えるのかすら疑わしい。
以前何かで調べた記憶だと、中国地方の花岡八幡宮に奉納されているという、国内最長の日本刀が刃渡り3・5メートルらしいので、一応それよりは短い。
ただその刀は当然、実際に武器として使用されるのではなくて、儀式などで使われる刀の神『令刀』に分類される。

ところが、この刀は、詳しい来歴などはわからないけれど、どうも実際に使用された、いや、多分現在でも使用されている。
人の手で振るわれる武器、としての美しさを余すことなく放っている。
武器、そう武器だ。
美しく鍛え上げられた刀身は、人か、はたまた別のモノかを血に染めるが故の輝きを放っている。
この刀を当たり前の様に振るえるモノが、あるいは存在しているのだろうか。
そう、例えば、

巌の如き硬度にまで鍛え抜かれた鉛色の肌を持ち、
鉄の瘤と見間違えるほど高質化した筋肉に覆われ、
敵対するものを容赦なく屠る凶暴さと、相反する高い技量を併せ持ち、
その腕は人など簡単に握り潰し、その雄叫びはあらゆる存在を震わせる、
腕周りだけで常人の胴体ほどもある、2メートルを越える鋼の巨人が、
「■■■■■■■■■■■■!!!!」
人の物ではない雄叫びを上げ…………

――目眩がした、欠けた夢を見ていたようだ。

「ふぅ……」
鞘に納まった刀を鞄に収める。 当面使い道など無いのだから。
明らかに納まるはずの無い刀が飲み込まれて行く手品のような光景を見て、便利な仕組みだなと思う。
普通に対応出来る程度には、現実離れした光景を目にしてきている。
こういう技術はもっと世の中に普及してくれれば……いや、それはそれで手荷物検査などの手間は掛かるし、運送会社の人たちも職を失ってしまう。
何より危険物を持ち歩くのが容易くなってしまう事を考えると、今のままでいいのかもしれない。
……閑話休題

当面の目的としては、
「……出て、きてくれないかな?」
極力、普通に話しかける。 円滑な会話を進める上で必要な事だ。
問いかけた対象は幽霊でも座敷童でも無く、真っ当に生きている筈の相手。
決して上手く、は無いけれど一生懸命に隠れているつもりらしいその身体を、大きく震わせる。
気付かれていないと思っていたのか、それともようやく気付かれたという驚きなのか。
「…………」
返事は、無い。
ただ僅かに発せられた驚きの声と、乱れた呼吸の音が彼女――僅かに見える影は少女のものだ――の驚きを示している。
自分でいう事でも無いけれど、僕は基本的に害があるような外見はしていない。
多分、最も目を引くのは、首に巻かれている銀色の首輪になるだろうか。
適当に切り揃えられた平凡な黒髪に、中肉中背な身体。
黒く揃えられたという以外に取り立てて特徴の無い、シャツに一枚羽織った服装に、最近では珍しいかもしれない黒縁眼鏡と、その奥の黒い瞳。
決して町で振り返られる事は無い程度に整った顔に、今は一応微笑みを浮かべている。
こんな状況下で強張らない程度には非日常に慣れている事に、今更溜息も出ない。
そんな、何処にでもいる青年が、何処にでもありそうな多目的ホールのロビーの椅子に座り込んでいる。
柱の影に隠れている少女からしても、普通ならば警戒する必要は無い筈。
或いは、最初にこのホールに入って来た時、彼女に声を掛けずに荷物を調べたのが最大の失敗かもしれない。
いきなり声を掛ければ逃げ出すかもしれないと思い、警戒を薄れさせようとしたのだけれど、刀という凶器がそこにあってしまった以上は警戒するのも止む無しか。
「え、と……」
「あの…………」
掛けようとした声が、重なる。
安心したのか、恐怖したのか、彼女はその姿を僕に晒す。
染めているという訳では無く、元から少し薄めなのだろう茶の髪と、同じ色の大きめの瞳。
枯緑色の襟とスカートのセーラー服に包まれたその肢体は、明らかに僕よりも年下のそれだ。
目を引く鮮やかさこそ無いけれど、控えめではあるけど整った、柔らかな容姿。
少女から大人への過渡期にある中で、平均以上のものを持つ、胸。
一番にはなり得ずとも、同年代の異性ならば一度は目に留めるだろう、可愛く、そして、普通の少女。
外見的な普通が真に普通である事とはイコールでは無いけれど、それでも彼女から放たれるのは、一般的な学生の持つ雰囲気だ。……ごく一部を除いて、ではあるけれど。
「こんばんは、僕は、黒桐幹也。 黒い、植物の桐に、その幹、也。
 君の名前、聞いてもいいかな?」
「吉田…一美です」
「そう、良い名前、だね」
初めて出会った少女に名前を聞いて、それを無難に褒める。
これは、よく考えなくてもナンパのような物でしかない。
「日本刀なんて物を持っているけれど、一応ごく普通の大学生かな、僕は。
 吉田さん?一美さん?は、どうかな?」
「あ、その吉田で……えと、私は……」
今この場所は、殺し合いの舞台らしい。
だから、出会った相手は全て、椅子取りゲームの対戦相手でしか無い。
でも、その中で出会った相手に、ナンパ紛いの自己紹介をしている。
けれど、それも仕方が無い。
僕は元々、人を殺せるようには出来ていないのだから。

「えーと、じゃあ吉田さんは、どうしたい?」
「え……?」
「僕は両義式と、黒桐鮮花の二人を捜したい、かな」
会話の筋道として、此方から話を振る。知り合いの、話を。
もう一人、浅上藤乃という名前の少女にも心当たりはある。
ただ、積極的に捜すべき相手では無い、出会ったのなら再会を確認するくらい。
「え、あの……その?」
「鮮花は聞いての通り僕の妹。 式は……恋人かな、一応」
「えと、私は……坂井君と、シャナちゃんと。
 あ、えと坂井君は……その……同級生で……シャナちゃんは友達で……」
恋人、という単語に顔を赤らめながらも、吉田さんはしっかりと意思の篭った声で答えてくる。
坂井君……という名前にわずかに秘められた感情は、おそらくは恋心なのかもしれない。
恋人、という言葉で思わず意識してしまう、そんなどこにでもある、甘い想い。
美しくて、悲しくもある思春期を過ごす、普通の少女。
そして、何処か普通では無い、でもその程度の違いしか抱えていない、少女。
「そう、それじゃあ、後で一緒に探そうか」



「黒桐さんは……」
どうして、同行したいのか、殺し合いと言われてどう思うのか。
聞きたいことは沢山あるだろうけど、それらを意図的に無視して共に行くことを決める。
話だしてしまえば納得は生まれ無い、だからまず形を作る。
「別に、ただ一人で歩くよりは心細く無いって、それだけの事」
別に正義の味方でも何でもないけれど、出会った女の子に死なれるのはイヤだから。
かといって、彼女を守る理由は無いし、僕の手は守れるほどに長くは無いのだから。
だからこれは、それだけの話。

普通の青年が、普通の少女と出会い、会話して、少しの時間を共にする。
或いはコレは、それだけの話。
普通の青年は、いきなりヒーローには成れないし、
普通の少女も、ただ自分に出来る範囲の行動しか出来ない。
危機に応じてあり得ない能力が目覚めるでもなく、
危機の中で、普段とは異なる恋に目覚めたりもしない、唯々普通の話。
その少女とはそれっきりになるか、或いは後々まで顔見知りを続けられるかは、この後の運次第。
末永いお付き合いは人間関係を円滑にするかもしれない程度のもの。

ただ……
(式……)
この位の出来事で、君の事を手放す気なんて、毛頭無い。
だから、君と会う為に、君とあり続ける為に、出来る事をする。
その程度の、偶然に本当を手に入れるよりも、よくある話。


【D-4 ホールのロビー/一日目・深夜】

【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、七天七刀@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
基本:式、鮮花を探す。
1:吉田さんと共に居る、出来るなら最後まで。
2:浅上藤乃は……現状では保留。

【吉田一美@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、不安
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1~3個
[思考・状況]
基本:坂井くんとシャナちゃんに会いたい。
1:黒桐さんと一緒にいる?


【七天七刀@とある魔術の禁書目録】
神裂火織の使用する二メートルを越える長さの日本刀





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