ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

女怪

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

女怪 ◆h3Q.DfHKtQ



地図上で「E-5」と呼称されるエリアには、
背の高いビルがまるで林の様に乱立している。

このエリアは、エリアの中央部を北から南へ流れる一本の川により
東西に分断されていたが、果たして、
東側のエリアには文字通り天を突く一つの摩天楼が立っていた。

この摩天楼の内部、地上から遠く離れた最上階の展望台に、
一人の少女が屹立している。

長い髪、引き締まった知性を感じさせる美貌の、
10代後半と思しき少女だ。
修道女を連想させる黒い装束に身を包んでいるが、
これは彼女が通う礼園女学院の制服である。

少女はしばらく思いつめた表情で、
窓から覗く下界の景色を眺めていたが、
不意に天上の月を見上げ、キッとそれを睨みつけると、
パッ、と翻るように踵を返す。

そして、この展望室の中央にあるエレベーターの前に立つと、
鉄の箱がここまで上がって来るまでの合間に、
右手に握っていた茶色の革手袋―火蜥蜴の革手袋―を、
キュッ、キュキュッと左右に着ける。

厚い鉄の扉が開き、鉄の密室の内部が晒される。
そこに確かに誰もいない事を確認するや否や、
彼女は即座に中へと入り込む。

鉄の扉は閉じられ、
彼女の背中はすぐに見えなくなった。


下へと移動する密室の中で少女、
黒桐鮮花は考える。

まずは守衛室に向かおう、と。
見たところ、このビルにはあちこちに監視カメラがあるが、
それを管理をしているのは恐らく守衛室だろう。
このビルに誰か他にいるのか、それとも自分一人だけなのか…
先ずそれを確認すればなるまい。

黒桐鮮花は考える。

支給品が火蜥蜴の革手袋だったのは幸運だった、と。
彼女の魔術の行使には、これは必要不可欠なのだ。
これから『戦場』に赴くのだから、
武器は使いなれた物の方がいいに決まってる。

『戦場』…
彼女はこの悪趣味なゲームの会場を戦場と呼んだが、
彼女にとってはここは戦場以外の何物でもない。
自分と『兄』以外、全て『敵』の戦場だ。

彼女は殺し合いに乗っていた。


彼女、黒桐鮮花がこの殺し合いに乗ったのは、
非常に意外性を帯びていながら、同時に限りなく必然であった。

彼女は非常に負けず嫌いだ。
何せ、明らかに堅気で無い恋敵に対抗するために、
魔術という闇の世界に自ら飛びん込んでいくぐらいだ。
だから、普段の彼女ならば、毅然と真っ向から立ち向かっただろう。
まだ半年とはいえ、確かに境界の向こう側の世界に足を踏み入れた彼女ですら、
「異常」と断じる事が出来る悪趣味な遊戯、正体不明の「人類最悪」…
だがそんな「異常」も、彼女を止める足枷にはならなかったはずだ。
彼女はそう言う人間なのだ。

故に、本来、彼女はこの殺し合いに乗る筈など無かったのだ。

もし名簿にその名前が無かったなら。

黒桐幹也

ああ、彼が、兄が、幹也が、
自分が殺し合いに乗ってしまったと知れば、
どれほど悲しむか。
それを考えると鮮花は心が潰れそうになる。

(でも…)
彼女は思うのだ。
(だって、しょうがないじゃない…)

彼のたった一人の、唯一無二の愛しい兄の名前。
自分の全てを投げ打っても、救わねばならない人。

その名前を見た瞬間、彼女は殺し合いに乗る事を決意した。
例え、鬼畜外道と蔑まれようとも、
それは彼女にとっての必然だった。

ふと、彼女の脳裏に過った一つの人影がある。
男みたいな恰好をした、いけすかない泥棒猫の事。
全身に煮えたぎった鉛を流し込まれるような悪寒を、鮮花は確かに感じた。

眼をとじ、頭を振って、無理やりその女の影を脳裏より追放する。
『あの女の事は、会ってから考えればいい』、そう彼女は自分に言い聞かせた。

何故、あの女の事を気にかけるのか、鮮花自身にも判然としなかった。


黒桐鮮花がエレベーターに乗り込んだのと、ちょうど同じ頃、
一人の少女が摩天楼の正面玄関から外へと踏み出した。

本来ならば、彼女が奇怪と気にかけるであろう自動ドアにも、
今の彼女は一顧だにしない。

鮮花とそう変わらない年齢だと思しき少女である。
殺気のこもった眼は闇夜にあって燦々と輝き、
右手に閃く白刃が月影を照らす。

伊賀鍔隠れ衆頭領、お幻が孫娘、朧である。

朧は本来、深い影を落とす睫毛、愛くるしい小鼻、やわらかな薔薇の唇、
白くくくれたあごの世にも稀な美少女であり、
幼女の如き天真爛漫さを持った鍔隠れの麗しき姫君であった。

しかし、今の朧にその面影は無い。

髪留めより解けた美しい髪は、風にばさと棚引き、
顔面は蒼白で頬は心なしかこけて見えさえする。
それでいて、目にだけは異様な精気があり、
その恐るべき蒼い光の中に、名状しがたい妄執が渦を巻いている。

(私が…)
朧は心の中で独白する。

(私がちゃんと死んだのに…)
思い起こすは、慶長十九年五月七日の夕暮れ。

(弦之介さま…)
思い浮かべるは、自分の命と引き換えにした愛しの甲賀の主の姿。

(あなたを今度こそ…)
助けなくてはならない。あの愛おしい人の命だけは。
そのためには、わが身を八つ裂きにしてもいい。
他の誰もを犠牲にしてでも、彼だけは助けなければいけない。

(そう、私は愛する伊賀者を手にかけることだって構わない)
天膳、小四郎…
確かに死んだ二人の伊賀者。
今の私は彼らだって殺せる。

朧は、フラフラと夢遊病者の様に、化け物の様なビルの立ち並ぶ、
夜の街へと一人歩きだす。

(あの人に斬られるのだ…)
愛しい人の手にかかる事を夢想するこの堕ちた伊賀の聖女の微笑みは、
ある種の妖艶な淫靡さすら感じさせた。

ああ、哀れなるかな伊賀の姫君。
汝の愛する若君は、既に冷たい躯になっていると言うのに。
彼女は知らず、愛しの男の為に、一人夜を行く。


月下の摩天楼に、二人の女殺人鬼が生まれた。

ああ、情深き女の執念よ。
気をつけよ世の男ども。
多殺一生是非も無し。
女は怖いぞ、女は怖いぞ…


【E-5/摩天楼のエレベーター内部/一日目・深夜】

【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也以外皆殺し
1:守衛室に向かう。
2:両儀式については会ってから考える。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦


【E-5/摩天楼のすぐ傍の道路/一日目・深夜】

【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、精神錯乱?
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外皆殺し
1:獲物を探す。
[備考]
※死亡後からの参戦

【破幻の瞳】
見るだけで如何なる忍法、妖術の効果をも破る瞳。
他人に化ける忍者は正体を暴かれ、不死の忍者はその再生力を失う。
妖術、忍法の効果自体を打ち消すのではなく、
その発生源たる術者の体質を、常人と同じ位置に引きずり落とす能力。
如何なる忍法をも修めることが出来なかった朧唯一の武器。
原作においては、弦之介の瞳術を真っ向から打ち破れる唯一の存在であると言われる。
「忍法」ではなく、ある種の特異体質。
完全に無意識に発動しており、敵味方関係なく、見るだけで無差別に忍法を無効化する。





黒桐鮮花 次:摩天楼狂笑曲
次:摩天楼狂笑曲
目安箱バナー