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もうどうにでもな~れ

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もうどうにでもな~れ ◆jVERyrq1dU



───さくっ……

どうやらおいらは死んだみたいだ。
ぷかぷかと湖に浮かんで、今までの人生について思い返してみた。
何がどう狂ってこうなってしまったんだろう。おいらはどうすれば過ちを犯さずに済んだのだろう。
死んでからもなお思う。ただただかがみに謝りたい。許して貰いたい。
全部おいらが悪いんだ。だから……お願いだから許してよ。本当にごめんなさい。ごめんなさい。

湖の流れに乗って、おいらの死体はゆっくりと流れ始めた。
どこかの岸に着くと思っていたけど、予想に反しておいらの死体は川へと流れ込む。
流れは勢いを増し、おいらの死体は次第に加速していく。水の感触がとても心地いい。

おいらの死体は流れる。河口へ向けてどんどん川を下っていく。遠くの方に誰かが見える。あれは誰だろうか。あ、川に飛び込んできた。
飛び込んできた誰かに、おいらは抱きかかえられる。この人は誰なんだろう。かがみと知り合いかな……

誰か知らないけど、出来ればこの人に伝えたい事がある。死体の癖に何を言っているんだと思われるかもしれないけど、
おいらにとっては石に噛り付いてでも伝えてほしい事柄……

────お願いだよ。無理な頼みとは分かってる。どうか、どうかおいらの謝罪をかがみに届けて……

「けひひ……美味しそうね。私の能力がどれだけ封じられているかどうか、測ってみようかしら」

おいらは自分の願いが叶わないであろうことを、直感的に悟った。

▼ ▼ ▼

       ____
     /⌒  ⌒\   ング ング
   / (●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒:::: \  チュパチュパ
  |     (   \    |
  \_   ヽυ  ::\ /
         \  .:::\

                /⌒\
       ____     (    )
     /     \     |     |
   /          \  |υ   |
  /  ⌒     ⌒  \ |  支給品のパン糞まずいお!
  |  ::::::  (__人__) :::::  | |     |
  \              / |     |

「紛らわしー食べ方するんじゃねえ!で、どうなんだ?」
「アザラシも竜も見てないお!いくらやる夫のクラスが半動物園状態だとしてもそれはないおw」
「お前のクラスの話じゃねー!」
やる夫にゴマモンと竜を見たかどうか、ジョセフは質問してみたが、残念な事に見ていないらしい。
話を聞いてみるとやる夫の知り合いはこの殺し合いにかなり参加しているらしく、もしかすると、とジョセフは思ったのだが。

今は二人並んで、川沿いを百貨店に向けて歩いている。やる夫は何も武器を持っていないので、ジョセフは自身の余った支給品を二つ渡す事にした。
油を手に入れればジョセフの戦力はかなり増す。やる夫にも戦力を持っていて欲しい。
大きな力を手にする事は二度目の殺し合いを打倒する上で役に立つし、その上今まで放置気味にしてきた問題、
ゴマモンと竜についてのいざこざにも手が回るかもしれない。

首輪を外し主催者を倒す事は無論何よりも大切だが、根は優しいジョセフは悲し苦しむゴマモンと竜を無視する事は出来ない。
なんとかして助けたいと思い、やる夫に助けを乞いたのだが、案の定このマシュマロマンは役に立たない。


「もうすぐ放送だお。HALさん、生きてるおな?」
やる夫は命を張って逃がしたハルヒの事を思う。クラスメイトであり、やる夫と同じく前回の殺し合いでも生存していた存在。
デューク東郷がいない今、やる夫がクラスメイトだと胸を張って言える人物は今のところ涼宮ハルヒだけだ。
そういった思いから、やる夫はハルヒの安否を殊更気にかけていた。



                                                    /⌒ ヽ ・・・
                                            /⌒ ヽ    / ´_ゝ`) 
                                /⌒ ヽ ・・・    / ´_ゝ`)    |    /  
                               / ´_ゝ`)       |    /     | /| |
        ゴボゴボ     / ⌒ ヽ         |    /        | /| |      // | |
  -/ ⌒ ヽ= _       -_/_´_ゝ`)二-     二| /| |二-     // | |      U  .U   
 ̄- ̄  ̄-        ─  ─  ̄-       ̄- ̄- ̄         U  .U


「ま、以前のならともかく、今のHALさんならゴキブリ並みにしつこそうではあるお!」
「へへ……お前の話を聞いて確かにそう思ったな。大丈夫だって生きてるだろうよん!」
「きっとそうだお。ジョジョは知らないだろうけど、以前のHALさんは便所の消臭剤みたいな奴だったのに、
便所にこびりついたうんこみたいな奴に変わってたお。余程の事をしないと流れそうにないお!」


              __
           .-´    ``ヽ      ぐえぁ
          /  ヽー     `ヽ
         / ノ    (O )ノ ̄ ̄`ヽ、―ニ  
        / (●) __)⌒/ ´`ヽ _  三,:三ー三,:
        | ::⌒(__ノ/  ノヽ--/ ̄ ,    `   ` ̄ ̄ ̄
       。ヽ 。   )(  }.  ...|  /!    
          ヽo (__ン  }、ー‐し'ゝL _  
         人  ー   jr--‐‐'´}    ;ーー------
        /        ヾ---‐'ーr‐'"==
                    |

「何馬鹿な事言ってんのよ殺すわよ」
やる夫とジョセフのすぐ隣を流れる川から這い出てきたハルヒがやる夫を思い切り殴る。
「や、やる夫おおぉぉぉ!!!お前誰だ!」
「その歯糞臭い口を今すぐ閉じなさい。このエセ外人キモマッチョオカマ口調野郎!! 私は唯一絶対神HALよ!」
「にゃにおこのアバズレが!お前悪口に何でもかんでも詰め込み過ぎだ!罵詈雑言にもセンスってもんがあるんだぜバーロー!」
ハルヒはジョセフの元につかつかと歩み寄り胸倉を掴む。
「ふん! 私の究極にして神聖なるセンスに文句付けるとはいい度胸ね」


(なんなんだぁ~イカレてるとしか言いようのない奴は!やる夫が言ってた通りじゃねーか……
ていうか究極にして神聖って時点でセンス0じゃね)
ジョセフは面倒を避けるため、ハルヒに胸倉を掴まれながらも両手を上げて降参のポーズをとり、愛想笑いをする。
敵ならばすぐに排除する必要があるが、さすがに可愛い女の子を殴るのは躊躇ってしまう。

「HALさん生きてて良かったお!GJだお!」
「うおっ!」
ジョセフの体をハルヒから引っぺがし、やる夫は嬉しそうに言った。
殴られて何の文句もないのか、余程のMなのか?ジョセフは少しだけ呆れる。
そんなやる夫に、ハルヒの顔は少しだけ綻ぶ。全くいいHAL厨に育ったものだとほくそ笑んだ。

「こいつはジョジョって奴だお。あの悪者と一緒に戦ってくれた人だお!命の恩人だお!」
「ふぅん……くひひ、おkおk。把握したわ。じゃああんた達ちょっとこっちに着いてきなさい。
向こう岸に面白いものを用意してあるから」


   /⌒ヽ
  / ´_ゝ`)   /⌒ヽ  それじゃあちょっと着いてきなさい・・・
  |    /   / ´_ゝ`)
  | /| |    |    /      /⌒ヽ  チャプッ
  // | |     | /| |      / ´_ゝ`)
 U  .U     // | |      |    /       /⌒ヽ  プクプクッ      プクプクプク・・・・
         U  .U     二| /| |二-_  -_/_´_ゝ`)二-    - /⌒ヽ= _     _  _ ッ・・・・・
                  ̄- ̄- ̄    ─  ─  ̄-      ̄- ̄  ̄-     - ⌒ 

「…………なんであいつあんな躊躇いもなく川に入っていけるんだ?」
ジョセフが呆れ顔でやる夫に零す。
「やる夫に聞かれても困るお……多分神だからだお……」

ハルヒに怒鳴られるのは嫌なので、やる夫は渋々川の中に入り、泳ぐ。
それに続いてジョセフもまた本当に嫌そうにしながら川に入り、対岸を目指す。
うひー、冷てえ汚ねえめんどくせえの三拍子揃ってるなこりゃあ。ジョセフは心中で愚痴を零した。

「おい、やる夫。向こう岸で何か燃えてるぜ?なんだありゃあ」
「心なしか美味そうないい匂いがしてくるお」
もくもくと煙が舞っている様子。風に乗せられ、いかにも美味しそうな匂いが二人の鼻に届く。
川の流れに流されつつもなんとか対岸に辿り着き、二人はハルヒが用意している料理を見つけた。
枯れた木の枝など燃えやすい物を集めて肉を焼いているようだ。
何の肉かはよく分からないが、ジュウジュウと油を滴らせて焼かれている肉はとにかく美味しそうだった。

「こ、これはHALさんナイスすぎるお!」
「やる夫こそあの時はナイスだったわ!!誠実に神を守る姿……いやあ本当にHAL厨の鏡よあんたは」
ハルヒが川から上がったばかりのやる夫の手を嬉しそうに握る。
HALである事を忘れてしまいそうなほど快活な笑顔だった。

「男たるもの当然の事をしたまでですおw」
「さすがよやる夫!やっぱりあんたは選ばれしHAL厨!私の側近に格上げよ」
「うはwwwそんなに褒めるなおwww別に嬉しくねぇおwww」
「そこは喜びなさいよ馬鹿!やる夫、あんたは神であるこの私に認められたんだからね!有り難い事よ」
手を取り合い再会を喜び合う二人を尻目にジョセフは火の元に近づく。
風がそれなりにあるので煙によって遠方の危険人物に見つかる事はまずないだろう。
それにしてもこれは何の肉だろうか。見た事がない。

「仲睦まじくやってるとこ悪いんだけどねぇ。HAL、この肉は何の肉だ?」
「ああん?あんた誰だっけ?」
やる夫を見る目と比べて、ジョセフを見る目は物凄くどうでも良さそうだ。
このクソアマ、と聞こえない程度の小声でハルヒを罵る。
「ジョセフだよジョセフ。ジョジョって呼んでくれ。さっきやる夫に紹介してもらったんじゃねーのー?」
「そういえばそうね」

やる夫から離れ、ジョセフの前に立つハルヒ。ジョセフの体を下から上までじっくりと見ている。
「あんたいい体格してるわね。私の下僕、やってみる気ある?」
「はあ……。その前に俺の質問答えろって」

やる夫から聞いてはいたが、HALという女はやはり変人だった。自らを神と称する辺り本当に恥ずかしい奴だ。
カーズ程の力を持っているならともかく、人間なのに神と名乗るなんてあまりに滑稽と言わざるを得ない。
それにしてもどうして俺が出会う奴はどいつもこいつも妙な奴ばかりなのだろう。
ゴマモン、竜、やる夫、全て人間じゃない。漸く出会った人間、
しかも可愛い女の子だからHALには期待していたが、ある意味やる夫達よりも変人だ。


「海獣よ。なんか知らないけど海獣がいたからね。パンまずいからやる夫を待つがてら焼き肉を作ろうと思ったのよ」
「怪獣って……オーマイガッ!そんなの得体の知れない生き物普通食う気になるかぁ?この肉はどんな怪獣だったんだよ」
その質問に、ハルヒは少しの間考える。
「どんなって……普通の海獣よ。種類とかどうでもいいでしょ。美味ければいいのよ美味ければ」
どうでもいいって……、ジョセフはハルヒのあまりのいい加減さに絶句する。
「これ、どうしたんだ?狩りしたのか?」
「なんか知らないけど海獣の死体が落ちてたのよ。まだ新鮮そうだったし、食ってみようかな、ってね」
「…………お前すげえよ色んな意味で」

そもそも何故殺し合いの場に怪獣がいるのか。そんな肉の体積を見る限り大きい怪獣ではないようだが、参加者以外の生物を介入させていいのか?
そして何故HALはあそこまで躊躇いなく食べる気になれるのか。怪獣っていうくらいだから相当奇妙奇天烈な生物だったんじゃないのか?
この三人の中ではまだ常識人(と言っても一般的なレベルからは大きくかけ離れているが)であるジョセフは疑問を隠せない。

ジョセフはハルヒを引いた眼で見つつ、ある事に思い至った。

「おい、まさかそれ竜の肉じゃねえだろうな。怪獣って竜の事か?」
ハルヒは本当に呆れた目つきでジョセフを見る。まるでいつまでたっても問題が解けない要領の悪い子供を見るかのように。
「あんた馬鹿?どうして海獣が竜なのよ。一般常識から学び直した方がいいわ」
(お前にだけは言われたくねえよこのクソアマ……)
声に出すと色々厄介なので心中でぼやく。

「そろそろ良さそうね。やる夫、もうすぐしたら日も昇るし、豪勢な朝ご飯といきましょ」
「うほっ、さすがHALさんだお!てっきり独り占めされると思ってたお!」
「けひゃひゃひゃ、私ともあろうものがそんなせせこましい事……もらったあ!!」
「!?」
ハルヒの腕が素早く運動し、一瞬で沢山の肉を口元に運ぶ。浅ましいにも程がある。
やる夫は呆然としていたが、すぐにハルヒの雰囲気に触発され、戦闘モードに移る。
ハルヒとやる夫、主従通しの焼き肉争奪戦が始まった。

「食い意地張って何が神だお!命の恩人に肉を全部寄こすくらいの器の広さはないのかお!」
「けひっ、黙りなさいやる夫!私は過去の事は引きずらないのよ!ほらそこ頂きィ!!」
「過去の事引きずらないとか、助けられた奴が言っていい台詞じゃないお!オラァ貰ったあ!!」
「よくお前らそんな得体の知れない肉をがつがつ食えるな……さすがの俺様もドン引きだぜ……」
喧嘩しつつも肉を奪い合う二人を遠い目で見つめるジョセフ。
こいつらなら無人島に放り出されても適当なものを食って生きていけそうだ。

「ジョジョ!食べないのかお?HALさんが作ったにしては滅茶苦茶美味しいお」
「どうせビビってるんでしょ。私の取り分が減るから余計な事言うんじゃないわよ」
ジョセフは二人を鼻で笑う。
「へっ! 文明人はそんな得体の知れない怪しい肉なんて食えないのさ。お前らと違って俺は進んでいるっつーわけだ」
胸を張って自信満々に言ったが、二人は聞いていない。夢中で肉を貪っている。

(ああ、俺だけのけ者にしやがって……なんか霧消にイライラしちまうぜ……
畜生、この変人コンビめ……美味そうに食いやがって……)

常識的に考えて、正体の知れない肉をそう簡単に食す気になれるだろうか。
確かに支給品のパンはまずいなんてものではない。温かくて美味しい料理があるなら当然そちらを食べたい。
しかし、やる夫とハルヒが食べているのは……

脂っこい匂いが鼻孔をつく。あれだけ油が滴り肉汁が溢れ、芳しい匂いのするボリュームたっぷりの焼き肉など、
以前の殺し合いも含めるともうずっと食べれていない。あんな美味しそうなものを食べれたら、さぞ満足感を得られるだろう。
ジョセフの腹がぐぅ、と間抜けな音を立てる。途中から二人の間に割り込むのはなんだかみっともないし、癪だが……だがしかし……

「畜生やる夫俺にもよこせ!!」
ジョセフはやる夫、ハルヒと同じように焚き火の前に座り、肉を貪り始める。
ハルヒが露骨に嫌な顔を示したが、ジョセフはそんな些細な事を気にするほど繊細な男ではない。
喉に通る至高の味、肉厚な歯応え、弾力性のある肉にはなかなか歯が通らない。
何度も噛むと漸く犬歯が突き刺さり、肉から肉汁と旨味がどっと溢れて舌の上で踊る。

「なんだよ滅茶苦茶美味いじゃん。損しちまったぜコンチクショー!」
「だから言ったお!ここからが本当の争奪戦だお!」
あまりの美味しさで、全身が生き返る心地すらする。
味付けを行っていない正真正銘野生の味は素朴なものだったが、ジョセフの胃袋を十二分に満足させた。
こんがりと焼けた油滴る肉を即席の箸で掴み、口の中に放り込む。
乱雑に切られた肉にやっと歯が突き刺さる。どこか塩辛い、血の味も少々する。
だが美味い。あまりにも美味い。美味過ぎる。この味を得られるのならば何でもしてしまいそうな……まさに犯罪的な味だった。

少々早い朝ご飯はクライマックスを迎える。【かいじゅう】の肉は残り一個。
やる夫の箸が肉目がけて唸りを上げる。ジョセフの箸がやる夫を妨害しつつ肉へと駆ける。
ハルヒの箸は誰よりも強引に肉へと直進していく。最後の肉を掴んだのは────

「いやあやっぱり日頃の行いがいいからかねボクチャンは!!」
ジョセフの箸が肉をがっちり掴み、即座に食す。こうして争奪戦は終了した。

「ききィィィィ……!!このガチムチ途中から参加した癖に私の肉を……!」
「いやあすまんすまん神さんめんごめんご!HAHAHAHAHAHAHAHA」
「や、やる夫の肉が……」
負け惜しみを次々と並べてくるやる夫とハルヒをあしらい、ジョセフ満足そうにふぅっと一息吐いた。

「いやあ予想に反して美味いのなんの。まだ怪獣がいるならそいつも食ってみたいねえ」
「くひひ、狩猟して取った肉は美味しいらしいわよ」
「ああ、とにかく恐怖とか絶望とかを獲物に味あわせればアドレナリンが出て美味くなるらしいからな。
養殖よりも狩猟でとった肉の方が上手いって聞くよなあ。ドSに追い詰めてやった方が上手い肉が取れるってな!」
「お前ら趣味悪い事知ってるおな」

食後の満足した気分の中、他愛のない話で三人は盛り上がる。
やる夫は変な奴、HALはもっと変な奴、だが悪い人間ではない。ジョセフはそう思っていた。
だがしかし、この後ジョセフにとてつもない衝撃が襲う。
やる夫やハルヒについて何も考えられなくなるほどのとてつもない衝撃が、まもなくやって来る。



『いきなりの放送事故失礼したね。 では早速だが第一回定時放送を始めよう・・・・・・おい』

────放送が始まる。

▼ ▼ ▼

「んな馬鹿な……ヒナギク、ゴマモン……!」
ジョセフは目を開いて声を上げる。大首領打倒のために共に闘ったヒナギクがまさかこんな早く死んでしまうとは思ってもいなかった。
そしてゴマモンも死んだ。つい数時間前に別れ、いつか自分の手で救ってやりたいと思っていた相手が、あっさりと死んでしまった。
やる夫と出会った後、百貨店なんて目指さずにすぐにゴマモンを探せばよかった。
ゴマモンはやる夫よりも遥かに危険な兆候を示していたではないか。意の一番に助ける必要がある存在だった。
ジョセフの心の隙から、全てを失ってしまった。今更後悔したところで遅い。ゴマモンは死んでしまった。

「キョン、ルイズ、圭一、みwikiさん……また死んでしまったお」
「大丈夫よやる夫。私が生き返らせてあげるから心配いらないわ……くひひ」
ハルヒは自信満々に胸を叩く。当然そんな事を言われてもやる夫は喜びはしない。
根拠のない自信満々なハルヒの台詞からやる夫が感じるのは違和感のみ。
何がどうなってハルヒはこうなってしまったのか、その疑問が益々肥大化していくだけだ。

「それにしてもまさかキョンの奴がまた死ぬなんてね。あいつはいいHAL厨になったでしょうに……
ま、首輪を外した後に生き返らせたらいっか」
悲しむ二人の前で、あっけらかんとハルヒは言う。そもそも仲間を失くし続けてハルヒはHALへと変貌したのだ。
誰にも信用されずに、次から次へと自分の関わらない所で仲間を失い、これ以上ないほどの悲しみを味わった。
HAL自身は気づいていないが、彼女が自らを神と称し世界を好きなように改変する事を目論むのは、
悲しい世界に立ち向かうには自らを神へと昇華させ、世界そのものを自分に都合いいように変える必要があったからだ。

【人間】のハルヒなら耐えきれないで潰れてしまう悲しみでも、【神】であるHALならば耐えられる。
何故なら人間のあれこれなど、神には何の関係もないのだから。自分が神ならばこの世で起こるありとあらゆる悲しみから逃れられる。
悲しみから解放されて、そして世界を自分の好きなように改変していくだけだ。
そうすれば全ての苦しみから逃れられる。悲しみと絶望で押し潰れそうになったハルヒが見つけた最後の打開策が、HALになる事だった。

「ふん!悲しむのはいい加減にやめなさい。朝ご飯も終わった事だし、これからの方針を話し合うわよ」
強い口調で言い、ハルヒはデイパックから二つの首輪を取り出す。
一つはルイズの死体から回収したもの。そしてもう一つは……
首輪を見て、ジョセフとやる夫はぎょっと目を見開く。

「HALさん、いつの間に……」
「逃げてる途中でボロボロになった死体があったのよ。そこから回収したってわけ」
「誰の首輪だお……」
「分からないわ。ボロボロで判別不可能だったもの。もしかして私達のクラスメイトかもしれないわね……」
もしあの死体がやる夫の知り合いだった場合、本当にハルヒはやる夫のクラスメイトかどうか疑われかねないので、
あのピンク色の髪の死体はボロボロで何者なのか判別不可能だった、と言う事にしておく。
やる夫は悲しそうにしていたが、そもそも殺し合いを破壊するには、首輪を分解しなければならない。
死体くらいしか首輪のサンプルを調達できないのだから、仕方がない事なのだ。時間はかかったが、やる夫は納得した。

「────で、こっちは海獣の首輪」
「「え?」」
やる夫とジョセフはハルヒの言葉に呆け、目を丸くさせた。
二人の妙な反応に、ハルヒも同じく面食らった。

「何よ。私何かおかしい事言った?」
「待てよ。怪獣って参加者だったのかよ。てっきり俺達は……」
「野生の怪獣かと思っていたお……」
二人の顔が青ざめていく。ハルヒには何故そんなにショックを受けるのか理解出来ない。
悲しみ、人との繋がり、絆……神になるのと引き換えにそれら全てを捨てたHALには、二人の感情が読めない。

「野生じゃないわよ。参加者に決まってるでしょ。それがどうかした?」
「参加者食っちまったお……」
「…………普通……首輪をつけた死体食うか?」

────馬鹿かこいつらは
ハルヒは心の底からそう思った。野生の動物なら平気で食えるが、参加者なら食ってはならないのだろうか。
やる夫はやはりどれだけ優秀な下僕としても、やはり神に比べればどこまでも愚かだ。
神である私が許してあげたのだからどうどうとしていればよいものを……

「んなもんどうでもいいでしょ」
半ば吐き捨てるようにハルヒは言った。
「殺し合いに加担してしまったお……」
心底絶望した様子でやる夫はそう言った。
「間違ってるわ。死体を食べただけよ。殺して食ったわけじゃない。どうでもいい事をいちいち気にするんじゃないわよ」

「どうでもよくなんかねえよ……」
やつれた様子でジョセフは言った。ただ怖がっているだけに見えるやる夫よりも、遥かに異常な雰囲気だ。
何かがおかしい。ハルヒは直感でそう感じた。

人間ではない参加者の死体を食べた、その事実から、ジョセフの脳内にとてつもなく悪い予感が走る。
放送でゴマモンの名前が呼ばれてしまった。そして自分達が食ったのは……
怪獣……かいじゅう……海獣。もしかするとアザラシなのでは?

「教えてくれ。俺達が食ったのは、いったい誰だ?」
「知らないわよ。動物の名前なんていちいち知ってるわけないじゃない」
適当に答えるハルヒに食ってかかる勢いで、ジョセフは猛然と言い放つ。
「どんな『かいじゅう』だったんだよさっさと教えろ!」
筋肉質な大男から放たれる大音量の怒声は大変な迫力を抱いていたが、そんなもので恐れるほど神は軟ではない。

「神に対して偉そうな口きいてんじゃないわよ!さっきから言ってるでしょ!海獣よ!」
「アザラシ程度の大きさで!アザラシみたいなヒレがあって!白くてファンシーな外見で!
どこからどう見てもアザラシにしか見えない怪獣じゃないよな!そんな怪獣じゃなかったよな!?」
目に火花を散らして、それでいて顔面は死人のように蒼白。そんなジョセフがハルヒに【否定】を求めてきた。

「……? 海獣だから当たり前でしょ?そうよ。要するにアザラシよ」
「ふざけんなよこのクソアマ……!どうして海獣なんて言い方するんだよ……!」
「決まってるでしょ。漢字の方がカッコいいからよ!」
当然のようにハルヒは言った。ジョセフは頭を抱えて蹲る。

「嘘だろおい、悪い冗談だ……ゴマモン……ゴマモン……!あれはゴマモンだったのかよ……!!」

ここまでくればさすがのハルヒも気づく。ジョセフは怪獣と海獣を間違えていたのだ。
この反応からすると、ハルヒ達が食べた海獣はもしかしてジョセフの知り合いだろうか。
そうだとするとたまらなく面白い。自分の仲間を自分で知らず知らずのうちに食ったのだ。
まるで喜劇ではないか。必死なジョセフの姿も合わせてハルヒの壺にハマったらしく、心中で大いに笑った。
常にハイテンションなお調子者の目に涙がこれでもかというほど溜まっている。

あらゆる悲しみから脱却したハルヒは、自分よりも陳腐な存在が悲しみに堕ち込んでいくのを見ると楽しくて楽しくて仕方がなくなる。
前の殺し合いでもわざと相手を残酷に殺したり、煽ったりしたものだ。
とにかく楽しいのだ。まるで弱かった頃の自分を高みから見ているような気持になって────

────いや、駄目だ。今はまだ笑うな……やる夫同様ジョセフの信頼も勝ち得なければならない。
優秀なHAL厨に育てたいなら今は笑わず黙して振るまえ……で、でも笑っちゃう……!

「そ、その通りよジョジョ。アザラシの海獣よ。怪獣じゃなくて海の獣……けひひひ
もしかして名前はゴマモンかしら?ゴマフアザラシのゴマちゃんだとしたら、安易なネーミングね。
誰が名付け親なのか知らないけど」

ハルヒがにやにやと笑んでいる傍らで、仲間の知り合いを食ってしまったと気づき震えるやる夫と、
絶望で顔面蒼白なまま涙を流して固まってしまったジョセフの姿があった。時折、ゴマモン……と機械的に呟く。
助けようと思っていた仲間を、過去の過ちに苦しみ続ける可哀想なゴマモンを、ジョセフは食ってしまった。
美味しい美味しいと楽しみながら、食べてしまった……

「けひひひ……まあでも聞いてよジョジョ」
次第次第に口角がつり上がっていくハルヒ。ジョセフに話しかける。
高ぶる感情を抑えつける事が出来ない。今までやる夫達の前で本性を封じていた抑圧もある。
ハルヒのHALとしての本性が、とうとう理性の殻を打ち破り、表層に現れ始める。

「もしかしてあんたゴマモンって分かりつつ食べたんじゃない?
あ、間違ってたらごめんね。それにしてもあんた美味しそうに食べてたわよね。
ねえ、あんたの友達ってどんな味がした? くひひ」
「やめろお……やめろおHAL」
幽鬼のような表情でやる夫は呟く。次の瞬間、やる夫はハルヒに飛びかかり、胸倉を掴む。

「やめろお……!いくらHALさんでもそれだけは許さないお……!!」
「ああ?」
やる夫を睨みつけたハルヒの目は、今までの乱暴だったがどこか節操のあるハルヒとは全く異なっていた。
全てを飲み込むブラックホールの如く冷たいハルヒの目に、やる夫は驚愕した。
「黙れよ白饅頭!! 何?誰に向かってキレてんの?立場を弁えなさい!あんた、出会った時から私の事を嘗めすぎなのよ!!」
思い切りやる夫の腹を殴る。あまりの苦しみに地面に蹲り、悶絶した。
そして踵でやる夫の頭を踏みつける。

「くひひひ……ええ、分かってるわよ。ジョジョは別にわざとゴマモンを食べたわけじゃない。
全てが悪い偶然ね。でもね……面白いじゃない人の不幸って。ねえ、やる夫あんたもそうでしょう?
あんたと私はゴマモンなんて知らないもの。無関係よ? 他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものよねぇ、くひゃひゃひゃ」

笑うハルヒに、ジョセフとやる夫は何も反論できなかった。
そもそもジョセフはもはや口をきける精神状態ではない。やる夫は腹を殴られた痛みで声が出ない。
人の傷穴にレモン汁を流しこみ、塩を擦り込むかのようなハルヒの煽りは留まる事を知らない。

固まっているジョセフの肩をぽんぽん叩き、ハルヒは楽しそうに口を開く。

「まあでも私達三人一緒にゴマモンを食べたんだしね!ジョジョだけが悲しむ必要ないわよ!
どうしても立ち直れないなら、良かったら私に相談しなさい! くひひ……もっと爆笑できる話が聞けそうだわ。けひゃッ!」
「どうしたんだお……HALさん……乱暴だけど、乱暴だけどいい子だったはずだお……
どうしてそんな酷い事を……」

何の事はない。ハルヒは首輪を外すためには他の参加者達の協力が必要だと考え、
仲間として受け入れて貰うために今まで猫を被っていただけだ。
ジョセフとやる夫にとっては悲劇、ハルヒにとってはこれ以上ないくらいの喜劇、そんな出来事が偶然起こってしまったため、
ハルヒのHALとしての本性が表層に現れてしまっただけの話。HALはもう止まらない。


「ねぇねぇジョジョ、やる夫、ゴマモンって美味しかったわよねぇ。
あんた達とこのHAL様はゴマモンを食べた仲、みんな仲良くやりまっしょい!!!」
ガハハハと下品に笑いながらやる夫とジョセフの背中をバンバン叩く。


絶望の中、ジョセフは自身がついさっき言った台詞を思い出す。
────ああ、とにかく恐怖とか絶望とかを獲物に味あわせればアドレナリンが大量に出て美味くなるらしいからな。
養殖よりも狩猟でとった肉の方が上手いって聞くよなあ。ドSに追い詰めてやった方が上手い肉が取れるってな!

「なんて……こった……」
ゴマモンの肉は美味かった。とにかく美味しかった。だからというとなんだが、
あのまま誰にも許されず絶望したまま誰かに殺されてしまったのではないだろうか。
いつでも助けに行けた。やる夫を助けた後、すぐにでもゴマモンを探しに行けば、こんな事にはならなかったのではないだろうか。

「もしかしてやる夫を捨ててさっさと助けに行けば良かったなんて思ってるんじゃない?」
ジョセフの長い沈黙に業を煮やしたハルヒが耳元で囁く。
「忘れているようだけど、あの焼き肉がゴマモンだと気付けられるのはあんたしかいなかったのよ?
どう考えても一番悪いのはあんたなの。今更後悔すれば許されると思ってるんじゃないでしょうね?
後悔する権利すらあんたにはない。あんたが誰よりも悪い」

「………………そうだ、食っちまったんだ。俺があいつを……」
ハルヒの最後の囁きが止めの一撃となった。死人のような表情のまま、ジョセフはうつ伏せの状態で地面にべしゃりと倒れこむ。
足は動かない。手も動かない。なんという事を俺はしてしまったんだ……
ジョセフの中には、もはや何の気力も残っていなかった。


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077:第一回定時放送 時系列順
068:涼宮ハルヒの雌伏 涼宮ハルヒ
070:1984年 やる夫
ジョセフ・ジョースター



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